ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
それを聞いて謙信くんは、安心したように微笑む。

「それはよかった。……なんか不思議な気分だな。夜景を見ながら、こうしてすみれと酒を飲んでいるって」

「……うん」

私もそう思う。それと同時に思い知らされる。謙信くんはもちろん、私もお酒を飲める大人になったんだって。

ジャズピアノに耳を傾けながら少しずつカクテルを飲んでいると、謙信くんが手にしていたグラスの中の氷が、カランと音を立てた。

「なぁ、すみれ。……さっき、寿司屋で大将の話を聞いてどう思った?」

「それは……」

言葉に詰まる。だって謙信くんが私に聞いているのは、これまでに謙信くんがたくさんの人と付き合ったことを、どう思っているかってことだよね?

グラスを持つ手が強まってしまう。

「俺たち、結婚するんだ。……正直なすみれの本心を聞きたい。どんなに頑張っても過去は変えられないから。アルコールも入っているし、今夜は無礼講だと思って聞かせてほしい」


私の正直な本心……? いいのかな、伝えても。それに私、ずっと謙信くんに聞きたいことがあった。

チラッと見ると、謙信くんも私を見ていてバッチリ目が合う。でも彼は急かすことなく私が話すのを待ってくれている。
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