ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「俺には中学から大学までずっといっしょだった親友がひとりいる。小さかったからすみれは忘れているかもしれないけれど、そいつと会ったことあると思うよ?」

「そう、なんだ……」

とは言われても、記憶は曖昧。でも確かに見かけるたびに彼の隣にいたのは、同じ男の子だった気がする。

必死にどんな人だったか思い出していると、謙信くんは続けた。

「俺にとってそいつは、なくてはならない存在なんだ。そいつにだけはなんでも話せる」

そっか。でも大抵の人には、そういった存在はいるんだよね。誰にも話せないことでも、その人にだけは話せる、親友という存在が。


ずっと憧れはなかったかといえば、嘘になる。人とうまく話せない。だからこそなんでも話せる存在がほしかった。

たったひとりだけでいい、私のことをすべて理解してくれる存在が。

私にはおじいちゃんや謙信くんがいる。……でも欲を言えば、同年代の同性の友達がずっとほしかった。

「なぁ、すみれ。……お前、大人になってしまったら友達はできないって決めつけていないか?」

「え?」

隣に立つ謙信くんを見ると、彼は水道を止め私を見据えた。
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