ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
「友達ってなにも学生時代にしかできないものじゃない。いくつになったって出会いはある。もしかしたら会社でだってできるかもしれない。部長と仲良くなれたなら、他の社員とだって話せるんじゃないのか? ……勇気、出してみたらどうだ?」

「勇気……」

彼の言葉を繰り返すと、謙信くんは大きく頷いた。


「そう。もしかしたらこの先、俺にも話せないような悩みができるかもしれないだろ? そういった時にすみれになんでも話せる存在がいると、俺も安心できる」

やさしい口調で言うと、少しだけ乱暴に撫でられた頭。

「すみれの口から部長以外の友達の話を聞けるの、楽しみにしているよ」


最後に頬に触れると、謙信くんは「先に風呂入ってくる」と言い、浴室へ向かった。彼の背中を見送ったまま布巾を手に立ち尽くす。

「なんでも話せる存在……か」

浴室からシャワーの音が聞こえてくる中、ポツリと漏れた言葉。

謙信くんは勇気出してみたらって言うけれど、やっぱりまだ同性の、ましてや同年代の先輩たちと話すのは怖い。
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