ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
下手に話しかけて気に触るようなことを言っちゃって、昔みたいに悪口言われて仲間外れにされたら?

もう二度とあんな辛い思いはしたくない。辛い思いをするくらいなら、ずっとひとりでいる方がいい。

それじゃだめだって頭ではわかっているけれど……そう簡単に勇気なんて出せないよ。

残りの食器の拭きながら、想いを巡らせていた。



「それじゃすみれ、またな」

「うん、気をつけて」

次の日の朝。いつもの場所で謙信くんに降ろしてもらい、ひとり会社へと向かう。

昨夜、あれから謙信くんは話の続きをしてくることはなく、入浴後は遅くまで書斎で仕事をしていたようだ。今朝も車の中でも、なにも言われなかった。

なのに私の頭の中には、昨夜の謙信くんに言われたことが残っていて離れてくれない。


傷つくのが怖いから、今のままでいい。部長と話せるようになったし、私には謙信くんやおじいちゃんがいる。……なのに彼の言葉が気になるのは、胸の奥にある本音は違うから。昔からずっと友達がほしいと思っていたから。
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