ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。

綾瀬さんは配属当初から、いつも私を気にかけてくれている。

謙信くんとの噂が広まってからも、変わらずずっと。

もしかしたら綾瀬さんは、他の人とは違うのかもしれない。……けれど、脳裏に浮かぶのは今朝のこと。


部長のように私と仲良くしたせいで、綾瀬さんにも迷惑をかけてしまうかもしれない。それだけは嫌。こんなに心配してくれる人だからこそ余計に。

レモンティーをギュッと握りしめ、彼女に伝えた。

「あの……ご心配ありがとうございます。でも、その……私なら大丈夫ですので」

早口で捲し立て、立ち上がった。

「書類の方、修正して提出します。レモンティーごちそうさまでした」

一方的に言うと大きく頭を下げ、休憩スペースを後にしていく。

「あ……桐ケ谷さん!?」

すぐに背後から私を呼ぶ声が聞こえてきたけれど、足を止めることなくオフィスへと向かう。

本当は嬉しかった、綾瀬さんが私にかけてくれた言葉が。彼女ならきっと私の話も親身になって聞いてくれるはず。

だからこそ頼るわけにはいかない。私のせいで迷惑かけたくない。……なにより自分自身が嫌な思いをしたくない。

オフィスに戻り、もう二度と仕事でミスしないよう集中した。