ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。

「……みれ、すみれ」

「――え、あっ……なに？」

数日後の夜。キッチンで洗い物をしていると、書斎で仕事をしているはずの謙信くんに声をかけられた。

すると謙信くんは水道を止め、私の顔を覗き込んできた。

「さっきから手は止まったままだけど？」

「あ……ごめん、ちょっと考え事をしちゃってて」

再び蛇口をひねり、水を出して残りの食器を流していく。けれど謙信くんは疑いめいた目で私を見つめたまま。

「考え事って？　どんなこと？」

「どんなことって……えっと……明日のご飯、どうしようかなって」

適当に誤魔化したけれど、謙信くんはいまだに私を眺めたまま。嘘だってバレバレなのかもしれない。


それでもシラを切り通し、お皿の泡を流していると謙信くんは「ふ～ん……」と言いながら私から離れ、冷蔵庫の方へ行った。

ホッと胸を撫で下ろすものの、彼は冷蔵庫の中を見てある物を手に取った。

「すみれ、これ飲んでいい？」

「え……あっ！　それはだめっ」

慌てて水を止め、手を拭いて謙信くんの元へ駈け寄り手を伸ばすものの、ひょいと腕を上げられ、手にすることができない。