ワケあって本日より、住み込みで花嫁修業することになりました。
声にならなくて口をパクパクさせる私に、謙信くんは真顔でさらに私との距離を縮めてくる。

「言っておくけど冗談じゃないから。それにすみれちゃんと自覚してる? 俺と婚約しているって」

それはもちろん! と言うように首をブンブン縦に振る。

「ならいいだろ? ……むしろ俺は、それ以上のこともしたいのに、我慢しているんだから」

が、我慢って……っ!

嘘? 冗談? それともからかわれているだけ?

けれどその間も謙信くんは、顔を近づけてくる。このままではキスされてしまいそう。

バクバクと高鳴る心臓。忙しなく動きすぎて、壊れてしまうんじゃないかと心配になるほどに。

鼻と鼻が触れてしまいそうな距離で彼はピタリと動きを止めると、擦れた声で囁いた。

「それか話してくれる?」

「…………っえ?」

「このレモンティー誰にもらったのか。……俺に飲まれたくないほど大切な人からもらったんだろ?」

なぜか彼の表情は苦し気に歪む。初めて見るそんな彼の顔に目が点になる。
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