君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー
「………そう。なら、さっさと優葉の前から消えてくれ。いいね?」
「………」
和泉は、李人に答える気力が無く黙りとしていた。そんな和泉を冷めた目で一瞥し、李人は言った。
「話はそれだけだ。 あいにく俺は今から今日の事で取材が多く入ってる。
来させておいて悪いけど、時間の空いているスタッフに言って自宅まで送らせるよ」
「………いい。一人で帰れる」
(………例え、死んでもこの男の世話にはなりたくない)
そう思った和泉は、李人にそれ以上何も言う事は無く、覚束ない足取りで李人の部屋を後にした。
「………俺は、間違えてない」
ホテルを出た和泉はポツリとそう呟いた。
(この気持ちを認めてしまえば、取り返しのつかない事になる………)
和泉にとって、先ほど李人に言ったことは正しい決断だった。
しかしーーー、和泉の心の底にあるのは………
「………ッ、違うっ………違うッ」
そこまで考え、和泉は何度も何度も自分に言い聞かせるようにそう震える声で呟いた。
ーーー絶対に、気付いてはならない想い。
それが李人との対峙により心から溢れ出しそうなのを和泉は必死で塞ぎ始めた………。
夏空は、夕方でもまだ明るい日が差し込み………和泉の影を作る。
しかし、それはいつもよりも大分濃く暗いものになっていたーーー。