君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー
(………バカか、俺は)
和泉は、穂奈美に反抗した後、優葉の事を思わず庇ってしまった自身を心の中で戒めた。
(この女を庇う事を言えば、自分の首を絞める。分かってたはずなのに ………何も言わなければ、この女が俺の担任でなくなると思ったら………言葉が出て止まらなくなった。
ーーー認めたくない。 認めたら駄目だ。なのに、俺はッ……… )
『なっ………和泉! わたくしはあなたの為にーーー』
しかし、依然として、和泉が心内で葛藤をしている間、自身の的外れな意見を押し通そうとする穂奈美に和泉の怒気は静かに頂点に達した。
ーーー瀬名家は、元々明治時代に曽祖父の洋二(ようじ)が衆議院議員に当選し、当時の内務大臣の秘書官を務めて以降、その地盤を受け継いできた政治家一族だ。
洋二の孫である悟もその地盤を受け継ぎ、国会議員として当選を果たしている。
なので、和泉が物心ついた時から悟、穂奈美、共に埼玉の瀬名邸に帰ってくる事は少なかった。
代わりに、"彼"と和泉をやがて瀬名家の政治地盤を受け継ぐ者として恥じぬよう、学業は勿論のこと、その言葉遣いや礼儀作法と何もかもを徹底して家庭教師をつけて学ばせた。
しかし、悟と穂奈美は一つでもそれらが上手く取得出来ない事があれば、どこまでも"彼"と和泉を鬼の形相で責め続けた。
全ては瀬名の名を国会に轟かせる為。 その強大な力を維持する為ーーー。
幼い頃から、そのような悟、穂奈美の欲ばかりが溢れた腹積もりに気付いていた和泉には、穂奈美の和泉を思ったような言葉など届きもしない。
(何が俺の為だ、このクソ女ーーー)