君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー

それを聞くや否や、優葉に川野スクールから離れるよう促されたこともあり、穂奈美は憤りを隠す事のないまま、去って行った。

(さっきのはマズかったか………)

家庭の事情がどうであれ、塾のような公共の場で、母の穂奈美と口争いをし周りを巻き込んでしまった事を和泉はまず悪く思い、田倉と優葉に頭を下げていた。

(何をしてるんだ………、俺は。 家とアイツの事は俺一人で抱えないといけない。こんな場で感情的に言っていいものでなかったのにーーー)

和泉は更に、先程、自らが穂奈美に発言したことに対して………この上ない罪悪感と自責の念に駆られ始めていた。

"彼"がいなくなってから、和泉はその身に………瀬名家の全てを背負わなければならなくなった。

瀬名家の有り様をどんなに忌み嫌おうと、 和泉はそこからは決して逃れる事はできない。

ーーーそれが、"彼"に和泉ができる唯一の贖罪であるからだ。

その贖罪は………和泉が唯、自分一人で静かに抱え込む必要がある。 それが、"罰"だと和泉は思っていた。

しかしーーー

『………いいよ。謝らなくて』

『瀬名君は………、何も悪いことはしてないよ。 だから、謝らなくていい』

優葉がそんな和泉に言ってくれたのは………和泉が思いもしなかった温かさのある言葉だったーーー。



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