君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー

優葉は、瀬名家のことや"彼"については殆ど何も知らない。
ただ、優葉は穂奈美と和泉の先ほどの言い争いを見ていただけだ。

それなのに、優葉は和泉に迷いなく"悪くない"と言ってくれた。


ーーーその優葉の言葉は………先程まで、罪悪感と自責の念に駆られていた和泉の鉛のように重かった心を、まるでそこに羽根でも生えたかのように軽くした。


(ああ………もう駄目だ)


和泉は、そう思うとーーー優葉に、穏やかに微笑んでいた。

ーーー優葉が、和泉が憎む"若い女の教師"であることも。

ーーー李人が、優葉を強く想っていることも。

そんな事は、もう和泉の前では………まるで細い枝のようにいとも簡単に折れてしまい、あんなに悩まされていたはずなのに今では嘘のようにサーッと和泉の心の中から消え去った。

(俺の負けだ………。この女が教師でも、従兄弟である若手のトップ俳優に想われていようと………もうどうでもいい。

俺は、笹原 優葉が………好きだ。 いつのまにか、こんなにも強く想っていたんだーーー)


いつも、和泉の心に柔らかく寄り添う優しさもーーーその強い正義感で和泉に真っ直ぐに立ち向かって来た姿も。


そして、和泉に見せてくれたあの弾けるような明るい笑顔もーーー和泉がからかえば顔を真っ赤にして一生懸命に反抗してくる姿も。

その優葉の全てに和泉は、いつのまにか心を奪われ、恋焦がれていたのだと知ったーーー。

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