君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー

「………和泉が、 "あれ"から前に進めてる気がして、 嬉しかったのよ」

そう言い、柔らかな笑顔を浮かべる有華の言葉に、和泉は刮目したが、直ぐに目を再び伏せた。

「………俺は、"あれ"から前に進んだらいけない。なのに、俺は….……よりにもよって笹原 優葉を………」

「誰が、前に進んだらいけないなんて言ったのよ? 和泉」

「………え?」

「誰が言ったの?」

一方で、今度は厳しい表情をして、そう問いかける有華に和泉は言葉を失った。

「誰ってそんなのは、俺がーーー」

「ほら、誰も言ってないんでしょ? 」

「………けどーーー」

「つまり、和泉が自分で勝手にそう思って、自分のクビをしめてるだけよ。
ねえ、一度でも………誰かが和泉に言ったの?
"いつまでも、過去の事を考えて、孤独に生きろよ。 誰の事も大切にせず、信じるなよ。恋もするなよ。夢なんて持つなよ"って………言ったの?」

有華はそう和泉に強く問いかける。

ーーー孤独に生きろ

ーーー誰とも、 親しくせず、信じるな

ーーー女に、けして心を許すな

ーーー若い女教師を憎め

ーーー"彼"の夢だけを追え

その瞬間………和泉の心内で響いた、和泉を"あれ"から縛る悪魔のような囁きは………紛れも無い和泉自身の声だったーーー。


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