君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー

そう有華が言えばーーー和泉の幼い頃からの大好物であるビーフシチューが、 店員によって運ばれてきた。

「お待たせしました、 ビーフシチューです」

大きく切られ、煮込まれた人参やじゃがいも、ホロホロの牛もも肉は、食べ応えがあり、 その旨味がぎゅっと詰まったシチューは食欲をこれでもかというほどそそる。

和泉が、 ずっと愛して止まなかったビーフシチュー。

その香ばしいにおいを久々に感じた和泉の胸は昔のように高鳴った。

「………ガキ、か。 そうだな………。 まだこんなにもここのビーフシチューが好きなのに。………"あれ"以来、俺は、そのことさえも忘れてた」

そう言い、 和泉はビーフシチューを一口食べる。

昔と変わらぬ、 その美味しさに和泉は舌鼓をうった。

「………うま」

そう、目を見開き、どんどんビーフシチューを食べる和泉の姿に有華は優しげに目を細め微笑んだ。

「………ガキんちょへの第一歩ね!いいじゃない〜! その方が何倍も可愛げがあるわよ、和泉!」

「………それ褒めてんの?」

そう言い、フッと微笑む和泉には………先程、墓前にいた時のような暗い雰囲気はない。

そんな和泉の様子を感じた有華は、また満足げに微笑み、ウィンナーコーヒーを一口飲んだ。




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