君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー
そう言い、穏やかに微笑んだ櫂を見て和泉は、親から決められた"政治家"になるレールの上を歩く為に不毛な努力をしなくても良いのだと初めて知り、 心が風船のように軽くなった。
それからは以前のように何かに迫られるかのように勉強はしなくなった。そして、自分のやりたい事は何なのかと考える時間が増え、笑顔も増えた。
ーーー櫂は、和泉をいつも理解し、 優しい心で見守ってくれた。 励ましてくれた。
ーーー櫂は、和泉にとって一番最適な道を照らし、 その先までを導いてくれた。
そんな櫂は、和泉にとってかけがえのない兄で、 言葉にならない程大切な存在でこれから先もずっと一緒にいられると信じて疑わなかった。
ーーーしかし、 和泉が小学校6年で、櫂が高校2年生の年。
櫂の前にとある女性が現れた事で………和泉と櫂、二人の運命は急速に狂いだすようになるーーー。
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『初めまして。この度、 お兄様の瀬名 櫂君の数学の担当を任されました多原 志帆(たはら しほ)といいます。 よろしくね、 和泉君』
ある日、小学6年生の和泉の前に現れたのは、 来年に大学受験を控えた櫂の家庭教師となった若い女性だった。
和泉と櫂には、小学校の頃から東京にある名門大学受験専門の大手塾から特別に講師が数年ごとに派遣されており、 若い女性ーーー志帆もその一人であった。