君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー
「うるさいな。 ………待ってなよ、そこで」
和泉は優葉の言葉を遮ると、邸宅の方へと向かった。
そして再び現れた和泉が持ってきた物は、 藍色の無地のハンドタオルだった。
和泉は黙って、優葉にそれを渡す。
「ッ、 瀬名君、これ」
「家の前で泣かれても迷惑だから。 ………落ち着いたらサッサと帰りなよ」
すると、和泉は再び邸宅の中に戻ろうとする。
「ま、待って、瀬名君!」
優葉はまだ涙の理由を聞いていない事に気が付き、和泉を呼び止めた。
「しつこいな………。 まだ何かある訳?」
「………どうして泣いてたの?」
優葉が再びそう尋ねると、和泉の顔が少しだけ曇る。
しかし彼は直ぐにまた、いつものような不敵な笑みを浮かべた。
「………演技の練習?」
「はっ?」
「俳優になりたいから」
「う、嘘! そんな冗談言ってーーー」
「じゃ、本当かどうかは………俺にまた聞けば? 何度でも何度でも。 そしたら答えるかもね? しつこいのは、 アンタの得意技そうだし?………笹原先生」
優葉は和泉が初めて名前を呼んだ事に目を見開いた。