君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー
李人もそれを思い、相手にしなかった。
しかし、李人は熱心にスカウトされ続けた。
"弊社所属俳優の仕事現場に1度でいいから見学に来て欲しい"ーーーと何度もしつこく誘われたのだ。
そして李人は、その度に断るのが面倒になった。
一度、見学に行き、断ればさすがに諦めるだろう。
そう思った李人は、事務所の稼ぎ頭である有名俳優の主演舞台稽古と本番を観に行った。
………そこで考えを変えたのは、他でもない李人だった。
『感動したんだ………』
『えっ?』
『俳優は、もっとチャラチャラした職業だと思っていた。けど………違った。
俳優は、限界まで身体を張って、まったく別の人間になって、一生懸命その人生を全うするんだ。
そしてその結果、観る人の心に希望だったり、切なさだったり色々な感情を持たせる事ができる。
それを知って、何だか本当に凄いと思ったんだ………』
『李人君………』
『今は興奮して、上手く言えない。
けど、俺はあんなにも様々な人の心を細部まで伝えて、沢山の人を惹きつける仕事を他に知らない。
…………とても、尊敬できる仕事だよ』
李人は舞台見学後、興奮を隠す事なく、初めに優葉へそう伝えた。
『………だから、優葉。俺、俳優になろうと思ってる』
そして、優葉に真っ直ぐな目でそう伝えた。