君は、近くて遠い。ーイエナイ三角関係ー


「………初めまして。 橘 李人といいます。 名前は君も聞いた事があると思うよ?」

「………は?」

「えっ、李人君………?」

(変装中の李人君は、俳優だと気付かれたくない筈なのに………。 どうして………?)

優葉は予想外な李人の行動に戸惑い、また和泉の前でどう振る舞えばいいかも分からなかった。

一方の和泉も、李人の台詞の意味が理解できず首を傾げる。

「………まぁ、 ネットで調べてみなよ。 優葉が世話になったね。 ………行くよ、 優葉」

しかし、李人は構わず優葉の手を引き、入り口へと歩き出す。

「り、李人君っ………?っ、瀬名君、 またね!」

(李人君………、どうしたの?)

優葉は、李人に半端連れ去られる形でコンビニを後にした。

「………何、あれ。めっちゃ腹立つ」

そのような優葉と李人を、和泉は引き留められる筈もなく、ただ見送るしかなかった。

そして和泉は、先程とは全く異なり、なぜか胸がギュッと押し潰されるような痛みと、言葉では形容しがたい怒りを感じた。

「………李人って」

(何で、あんな男を名前で呼ぶんだよ………?)
< 74 / 660 >

この作品をシェア

pagetop