クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「私にだけ?」


小さな頭がこくこくと頷く。


「すっごく嬉しい。ありがとう。大事に毎日使うね」

「おてがみ」


律己くんに指さされて、袋の中にメモ帳が入っていたことに気がついた。


【えりかせんせいいつもありがとう】


"え"はほかの文字の倍くらいのサイズで、"と"と"う"が左右ひっくり返っている。でも読める。

ホテルのロゴが入ったメモ帳。いかにも部屋に備え付けてあるような、あれだ。旅先で、水入らずのひとときを、少しでも私のために割いてくれたのだと思うと、胸がいっぱいになった。

思わずがばっと律己くんを抱きしめた。


「お手紙、読めるよ、すごいね。大きくなったねえ」


ふふ、とかわいらしい、得意げな笑い声が聞こえる。

私は有馬さんを見上げ、ふふんと笑ってみせた。


「私、律己くんが歩けるようになる前から、毎日見てますから」


微笑ましそうな表情でこちらを見守っていた彼が、私の発言が、ただの自慢であり、挑発であることに気づいたらしく、はっと引き締まる。


「…でも、律己と風呂入ったことなんかないでしょ」

「おむつは替えてましたけどね。数えきれないくらい」


むむっと有馬さんの眉が寄る。

私たちはしばらく睨み合い、それから一緒に吹き出した。


「まずいな、けっこう本気で悔しいです」

「でしょう」


存分に悔しがってください。悔やむ必要はないから。そしてその分、これからふたりでたくさん同じ時間を過ごしてください。
< 116 / 192 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop