クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「でも、あの、そうだとしたら、どういうことなんでしょう、園に来たっていうのは」

「わかりません。そもそも向こうが、律己の存在を認知しているのかどうかすら、俺は聞かされてなかったんです。姉の口ぶりでは、知らせずに逃げてきたような感じでした」

「じゃあ」

「あっちはずっと、調べてたのかもしれませんね」


少し先にある線路のほうに目をやって、彼がつぶやいた。


「姉の足跡を」


駅を通過する特急が、ホーンを鳴らしながら走り抜けていく。

調べていた。

それは悪いことなのか、歓迎すべきことなのか。

特急が消えた方向をじっと見つめていた有馬さんが、ふいに空気を切り替えるようにこちらを向いた。


「ひとまず事態はわかりました。ご迷惑をおかけして申し訳なかったです」

「いえ、私たちは…」

「今度、同じ男が現れたら、俺の連絡先を伝えてもらえませんか。律己の今の保護者だと言って」


はっとした。

有馬さんの表情は、疑惑や懸念が払い落とされ、さっぱりと吹っ切れてはいるけれど、余裕はなく、真剣だ。

対峙するつもりなんですね。

真っ向から、受けて立つつもりなんですね。


「…私が応対できたら、というお約束しかできないんですが」

「いいです。お手数おかけしますが、よろしくお願いします」

「わかりました」


私のほうが不安そうな態度を取ってしまっている気がして、背筋を伸ばした。

しっかり。律己くんを守る責任は、私たちにもあるのだから。


「じゃあ」

「あの、有馬さん」
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