クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
頭の中は、すでに次の段取りでいっぱい。

少し時間があるので、使用禁止の札を貼ってある遊具で遊んでいる子がいないか、見回りに出ることにした。

すでに小学生となった卒園児の子たちも、弟や妹たちを見に来てくれていて、私を見つけると「エリカ先生」と手を振ってくれる。

たった半年で、びっくりするほど少年少女へと成長した彼らに舌を巻きながら小走りに駆けていたら、鉄棒に寄り掛かっている人影を見つけた。


「有馬さん」


トラックを囲んでいる賑やかな人垣を、離れたところから腕組みをして眺めていた彼が、私に気づいて「あ」と言った。

『あ』じゃないでしょう!

私は駆け寄り、胸倉を掴みたいような気持ちで問いただした。


「なにしてるんです、こんなところで」

「運動会を見てます」

「じゃなくて、もうすぐ保護者リレーですよ、さっき集合のアナウンスがあったでしょう!」

「別に強制参加じゃないでしょ?」

「子供たちが頑張ってるのに!」

「いや、だからさっき親子競技には出たでしょ」

「なんですか、その態度! 大人としてどうなんですか!」


案の定、彼が顔に「うわあ、うざい」と書いて、げんなりした目つきを向けてくる。私は彼が、走ろうと思えば走れる服装なのを確認し、その腕を掴んだ。


「さ、行きますよ」

「いや、勘弁してくださいよ」

「うちのクラスはほかより人数が少ないんです。その分は担任が走るんですよ。有馬さんがいなかったら、私、三周も走るんですか?」

「走りゃいいでしょ、自分たちで決めたルールでしょ?」


この人の、こういう頭に来る正論は無視に限る。

私はぐいぐいと彼を引っ張っていき、入場門の横でハチマキをつけている保護者の群れの中から、面倒見がよく、明るいキャラクターのお父さんを捕まえ、「こちら、有馬さんです」と紹介した。

これまで園にかかわってこなかった有馬さんは、保護者同士の横の繋がりも当然ながらない。それどころか存在すらあやふやで、いるのかいないのかわからない幻の珍獣みたいな認識をされているのを知っている。これはいい機会だ。

富永(とみなが)さんというそのお父さんは、珍しいものを見た、という顔を隠しもせず有馬さんに向け、「よろしく」とにっこりする。
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