クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「どうやったって、そこには私自身が入るんです。消せませんでした」

「よかったですよ。俺の知ってるエリカ先生が、完璧に作り上げられたものだったりしたら、怖いし気持ち悪いし」

「最初は本当に苦悩したんですよ」


その部分に、いい意味でのあきらめがついたのなんて、最近だ。

離乳食を食べていた子が、大人と同じものを食べられるようになって、おむつを卒業して、自分の考えを語れるようになって、小学生としてすくすく育っているのを見て。

その積み重ねで、ようやく自分がこの仕事をしていることに、罪悪感を覚えずに済むようになったのだ。

それはまた、子供が日々接している世界がいかに広く刺激に満ちていて、同時に自分のちっぽけさを知ったということなのかもしれなかった。


「身の程を知って、謙虚になれたんだと思います。自意識過剰な人間でしたから」

「そんなに厳しくしなくていいでしょ。自分を客観的に見つめられるようになったってことですよ」


有馬さんは、後ろに手をついて、空を見上げている。

その口が、「謙虚かあ」と呟いたとき、彼の頭の中を、どんな事柄が去来していたのか、私には当然ながら、想像なんてまったくつかず。

だから彼が、ふと笑顔を消して、律己くんに視線を注ぎ。


「お前、ほんとの親父のとこ、行くか」


そう言ったとき、この平和な日曜日の公園の風景が、いきなり崩れ落ちたと感じるほどの衝撃を受けたのだった。


「有馬さ…」

「おやじってなに?」

「パパのこと」

「ぼく、どこかに行くの?」

「そう」


律己くんは、突然飛び出したこの話題にも動じることなく、ただ眉間にしわを寄せて、彼らしい真剣さで、じっと考え始めた。

私はたまらず律己くんの背中側から腕を伸ばし、有馬さんの腕を掴んだ。

なに考えてるんです!

視線でそう伝え、絶対に伝わったはずなのに、彼はこちらを見向きもしない。

やがて律己くんが顔を上げた。


「いいよ」

「律己くん!」

「でも、そうするとパパが、さみしくなっちゃうと思うから」
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