クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
コンビニで遭遇した、まだ名前も知らない、まさか園児のお父さんだなんて思いもしなかった頃を思い出した。

今思ってもやっぱり腹が立つ。あの人をバカにしたような態度。そして気づいてみれば、そのあたりは全然変わっていない。

冷蔵庫が閉じる音がして、「あっちで飲みましょ」と缶をふたつ手にした有馬さんが、書斎を指しながら戻ってきた。

初めて入った書斎は、いかにも男性の部屋という感じだった。無機質な黒いスチールのデスクにオフィスチェア、そしてシングルベッド。

デスクの横のサブテーブルには、小さなテレビといくつかの機材がある。あとコントローラーがたくさん。


「これ、ゲーム機ですか?」

「そうですよ」

「家でゲームするんですか」

「そりゃ、一応ゲーム屋なんで」

「競合の調査みたいな?」

「いや、家では単に好きなのをやりますね。仕事上必要なら会社でできますし」

「会社でゲームができるんですか!」

「だってゲームを作ってるんですよ。開発のない期間は、勉強のために、一日他社のゲームをプレイしてることだってありますよ」


へえー。

ゲームクリエイターといえば、男の子のなりたい職業、近年の上位常連だ。この辺の自由な雰囲気に憧れるんだろう。そして親が子供に"就いてほしくない"職業で上位に来るというのも、まあわかる。


「律己もやりますよ。レースゲームとか。子供の集中力ってすごいですね、あっという間にうまくなります」


有馬さんは私をベッドに座らせ、自分はオフィスチェアに腰を下ろした。小さな部屋の、わずかに残った床の見える場所を挟み、向かい合う形になる。

缶ビールで乾杯をした。


「発表会、お疲れ様でした。先生たちも大変なんじゃないですか、ああいうの」

「私、夕べは眠れませんでした。段取りが心配なのもあるんですけど、子供たちが失敗したりしないかな、喧嘩したり泣いたりしないかなって」

「それも微笑ましいですけどね」

「子供自身が傷つくこともあるんですよ。失敗体験として記憶されてしまって。だからやっぱり、なるべく"やりきった!"と思わせてあげたいんです」


有馬さんは、たまに彼が見せる、すごく穏やかな笑顔で、「なるほどね」とうなずいた。この人はこんな調子のくせに案外、相手を肯定するのがうまい。

見とれかけて、はっと思い出した。
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