クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「それで…」

「あらそう、って。単に、俺が先生に迷惑をかけてないかが気になっただけみたいで。『あなたみたいになってない方には、あのくらいしっかりした女性がいたほうがいいですね』って」


私は、ドキドキと鳴る心臓を押さえながら、決して笑い飛ばせないこの一件が、知らないところでそんなふうに片づいていたことが信じられない思いでいた。

鵜呑みにしていいんだろうか。これは、善意で見逃されたと捉えるのが正しいんだろうか。翔太くんのお母さんの、真意とか、確かめたほうが…。

ふいに「先生」とすぐ近くで声がして、びくっとした。

有馬さんがいつの間にか、隣に移動してきていた。


「大丈夫ですよ、俺、忘れてないです。先生の立場とか。誰に咎められる理由もないとは思ってますけど、俺らがそれを言う側じゃないっていうのもわかってます」

「だけど、実際、見られて…」

「車で一時間かかる場所まで移動してるのに、さすがにそれ責める人もいないと思いますよ」

「教育に悪いとか…」

「そういう思考停止ワード、やめましょう。子供たちの前でべたべたするとか、先生が明らかに律己だけ贔屓するとかならともかく、先生と俺が休日に会うのが、どう、誰の心身の成長を妨げるっていうんです。その言葉を使ってくる人はいるかもしれません。でも俺たちは、避けませんか」


私はなにも言えず、落ち着いた言葉で諭してくる有馬さんの顔を見上げた。

その顔が、にこ、と微笑んだ。


「翔太くんのお母さんの言葉を借りましょうか」

「え…」

「『保育園の母親は忙しいんです。子供に影響が出ない限り、誰と誰がどういう関係だろうが気にしません。噂話をする暇すらないんですよ、年がら年中そのへんにたむろしている幼稚園ママたちと違ってね!』」


…幼稚園のお母さん方にも、忙しい人はいるだろうに。まあでも、その両者の間の確執は、昔からのあるあるだ。


「私たちを信用しなさい、って、彼女なりの言葉ですよね。面白い人ですね、俺、好きですよ。『女性の趣味だけは悪くないのね』って褒めてもらいましたし」

「それ、褒められてませんよ」

「わかってます? 先生の評価が俺たちを助けたんですよ」

「え?」


私の頭の中を探るような感じで、彼がじっと目を見つめる。
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