クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
「先生が、公私を混ぜずに平等に子供たちに接する、信頼のおける先生だから、翔太くんのお母さんは、ああ言ってくれたんですよ」

瞳が優しく笑った。


「"保育士・倉田エリカ"の築いたものですよ」


胸が、あんまり急に熱くなったので、涙がこみ上げてきた原因が、体内の水分が膨張したせいのように思えた。

三分の一ほどを残してぬるくなった缶を、両手で握りしめる。

有馬さんの腕が、私の肩を抱いた。

最初、仲間を励ますようにぽんぽんと肩を叩いたその手に、ふと熱がこもって、私を引き寄せる。私の頭に、頬ずりするみたいに顔を寄せ、やがて覗き込むようにして、唇にキスをくれた。

熱い、甘いキス。だけど清潔で、深くはない。

最後に軽く吸いついて、離れていった顔は、怪訝そうに曇っていた。


「…なんですかね、律己はぐっすり寝てて、ベッドがここにあるっていうのに、妙にその気になれないこの感じ」

「わかります」

「先生が先生だからかなあ?」


不可解、と顔に書き、眉をひそめ、首をひねっている。


「これ、相手が奥さんとかなら、今のうちにいっとく? みたいな感じで、さくっとできるんですかね?」

「私に聞かないでください」

「世間の夫婦って、どうやって二人目以降を作ってるんですかねえ?」


私に聞かないでくださいってば。知りません、そんなの。

しばらく納得いかなそうにしていた有馬さんが、あきらめたのか、「まあいっか」とため息をついて、片腕で私をぎゅっと抱きしめた。


「ここで先生が眠ってくれる日が来たらなあ」

「せめて律己くんが卒園しないと」

「ですよねえ」

「それと、まず彼に説明しないと」

「ほんとそれです。いったいいつ、どう説明すりゃいいんですかね」


冗談めかしてはいるけれど、その声は、そこそこ本気でその難題に頭を悩ませているのが伝わってくる。

彼の、空いたほうの手が、私の左手を取った。

重さや手触りを確かめているみたいに、揺らしたり握ったり。
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