クールな彼のワケあり子育て事情~新米パパは甘々な愛妻家でした~
その手を見つめながら、彼がぽつりと呟く。


「いつか…」


言葉は途中で消えた。

有馬さんは照れくさそうに、視線を手にやったまま小さく苦笑した。

私はその手をぎゅっと握り返し、温かい肩に頭をもたせかけた。

はい、いつか。

いつか、保育士と保護者という関係を卒業して。

律己くんにすべてを打ち明けて。

受け入れてもらって、誰にも隠すことなく一緒にいられる日が来たら。

有馬さんが、頬で私の頭を押すようにして、顔を上げろと促してくる。素直に上げると、期待した通りの、愛情深くてこの人らしい、まっすぐなキスが来る。


いつか、そんな日が来たら。

同じ屋根の下で眠って、一緒に目を覚まして。

有馬さんと律己くん。父親と息子。そこに収まる、もうひとつのピースに、もしかしたら。

いつか。

いつか──…。


* * *


「なに驚いてるのよ。帰るって言ったでしょ」

「そうだけど」


年末、仕事を納めた翌日の朝、伝えた通り実家に帰ったのに、母は奇妙な顔つきで私を出迎えた。

父が身体を悪くしてからバリアフリーになった玄関は、完全にフラットで、廊下も車いすが通れる幅に改築されている。こうなる以前から、極力帰省をせずにいたため、私にとってはここは、実家というより、"父母の家"だ。


「来るときはいつも夜遅いじゃない。朝から来るなんて、珍しいから」


案外見ているんだな。

私は家の中に上がり、コートを脱いだ。二階には私が使っていた部屋がそのまま残っている。だけど私はそこが好きではないので、くつろぎを求めて上がることはない。

後で自室に持っていこうと、とりあえずコートをリビングのソファに置いた。


「お父さんもじきに起きるわ。エリカが来てると知ったら喜ぶわよ、何年ぶり?」

「家に帰ってきてないだけで、外で食事したり、しょっちゅう会ってるじゃない」

「家に帰ってきたってところが、嬉しいのよ」
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