唯少女論
放課後の美術準備室。



アタシは彼女と今までの卒業アルバムを何十冊と、何も言わずに見ていた。



アタシ達の担任が美術教師で顧問の美術部の桜木さんに卒アル係りを頼んだのは少し納得できた。



だらだらとページをめくるアタシに対して彼女はきっちりと要点をまとめてメモしている。



アタシみたいな面倒くさがりとは正反対だった。



だから話すきっかけも探せない。



桜木さんと楽しくお話したいのに。



部屋の中に、二人きり。



言葉はほとんど交わしていない。



正直、気まずい。



藤田とだったらグループは違っても話せるのに。



「あ、そうだ。———ねえ、桜木さんって藤田と仲いいよね。わもかって呼ばれてるの?」



「うん。………私がそう呼んでほしいって言ったの」



「何で?」



「私、自分の名前ってあんまり好きじゃなくて」



「そうなんだ。どんな名前なの?」



「………言いたくない」



クールなフリ、興味のないフリをしていたけれど、恥ずかしそうに顔を背けるその表情を見て、



「———かわいい」



と思わず口にしてしまった。



不意のことに驚いた彼女が頬を赤らめる。



それにつられてアタシも焦って顔が赤くなるのを感じた。



「あ、いや! そのー、決して深い意味はなくて………」



「………うん」



「素直に、かわいいなって思って」



「………そんなことないよ」



「そんなことあるよ。目鼻立ちだって整っているし、顔もタマゴみたいにとぅるんってしてるし」



「とぅるん?」



「キレイなお肌で羨ましい」



「ううん。私なんか………私よりお姉ちゃんのほうがキレイなの。だから私はお姉ちゃんが羨ましい」



「お姉ちゃんいるんだ。アタシは一人っ子だからお姉ちゃんって羨ましい」



「何か最中さん、さっきから羨ましいばっかり」



「だってほんとうに羨ましいって思ってるんだよ。桜木さんのこと———」


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