唯少女論
そう考えながら兄にパンケーキのことを伝え、席に戻るとカニクリさんが、



「みっともないところ見せちゃってごめんね」



と気遣ってくれた。



「いえ、友達ってこういう感じなんだなぁって、改めて実感しました」



「私達はいい例えにはならないかもだけど。……そう言えば、彼女は?」



「彼女……」



その言葉に少し、心がざわついた。



「一緒に浴衣着てた彼女。お家近いの?」



「隣町です。でも、友達になったのは最近で……」



「家から近いのいいなー。私達は大学が一緒なだけでカニクリがちょっと遠いから」



「二人は一緒に住んでるからいいじゃない」



「えー! カニクリも一緒に住もうよー」



「一緒に住まなくても、しょっちゅう泊まりに行ってるし。それでいいでしょ?」



「えー、そーだけどさー」



そんなやりとりを微笑ましく見ているイズちゃんさんを見て、私もつられて微笑んでいくのがわかった。



「仲いいんですね」



「そんなことないよ」



「そんなことあるじゃん。今日だって私達カニクリの部屋にお泊まりなんだよー」



「……なんだか、うらやましいな」



「ん? ……もしかして、彼女とケンカでもした?」



何かと甘える梨世さんを軽くあしらいながら、カニクリさんが私を見ている。



その瞳は優しさを深く漂わせて、柔らかく私を映し込んでいた。



「いえ。でも……もう会わないかも」



「嫌いになったの?」



とカニクリさんが言うと、



「カニクリなんか最初すっごい感じ悪くてね……!」



梨世さんが口を挟むのを片手で制止する。



最初は私達もこういう友達関係だったはずだ。



どこから変わってしまったんだろう。



「いいえ、……私が引っ越すんです」



私の何が変わったんだろう。



「引っ越しても友達なのは変わらないでしょ?」



わかっていた。



わかっていながら、それを理由にしようとしている自分がいる。



「女同士が仲いいのは不思議じゃないですよね?」



「そうだよー。だって大好きだもん」



私は私が大嫌いだ。



「それって、付き合ったり……じゃないですよね?」



「梨世と? それはないなぁ」



「私は梨世ちゃんが男だったら、付き合ってあげてもいいよ」



「はいはい、男でも女でも私はお断りです」



私が男だったら、きっとこんなことは悩まない。



ただ、この思いを告げられないままカノジョとさよならするだけだ。



「あ、もしかして恋の悩み? 好きな男子がいるんでしょー?」



「梨世、茶化さないの。好きな人がいるのは素敵なことだよ」



そうだとしたら、女の私はどうすればいいんだろう。



「でも、悩んでるなら、こういうのはどうかな?」



カニクリさんの言葉に、



「自分に素直であれ」



私は息を飲む。



「昔のヒトもそう言ってる。わもかちゃんがどうしたいのか、素直に真っ直ぐ彼女に伝えるのがいいと思うよ」



そう言って微笑むそのヒトに私はぎこちなく笑った。


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