繋がる〜月の石の奇跡〜
そしてアパートの前まで来た時、前の方から一人の男の子がこちらへ向かってくる。

「よう!井上!」
大谷が声をかける。

「お疲れーっす。」
何ともラフな返事が返ってきた。

「お前なー、先輩にはもっとしっかり挨拶しろよなー。」
冗談交じりに大谷が話しを続けた。

「井上」と名前を聞いた瞬間、どこかで聞いたことがあるような気がしたえみは、少し考えたが誰だか思い出せなかった。

そして、大谷と井上のやり取りを聞いていると、えみは急にいたたまれない気持ちになっていった。

『なんだろう。胸が痛い。』
えみの心の中がどんどん苦しくなっていく。

「すみません。私、さ、先に帰ります。」
二人に向かって軽く会釈をして歩き出す。

「えみちゃん、荷物!」
大谷がえみを呼び止めた。

「僕も今行くから待って。じゃぁな、井上!」
そう言ってえみの方へ大谷が近づいていく。

えみは荷物を受け取り、お礼を言って部屋に戻ろうとする。

「これ、あげるよ。」
満面の笑みでチョコレートアイスを右手に持っていた袋へ入れてくれた。

そして大谷は、自分の部屋へ戻っていった。
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