社長、僭越ながら申し上げます!
家を出たは良いものの……
微々たる所持金とラフな服装

行けるところなんて限られていて

私は街をフラフラと歩き
二つ先の駅にある図書館に辿り着いた

「図書館ならゆっくり出来るかな」

オフィスやタワーマンションが多い地域から少し外れたここは、戸建てが立ち並び
図書館、博物館など文化施設が集まっているようだ

受付でカードを発行して中に入ると
静かな空間が広がる

私は自分では買わない絵本のコーナーで懐かしい絵本をペラペラと捲っていた

(懐かしいなぁ)

見ながら何だか柔らかな気持ちになっていた
すると……

「眞山…」

私を呼ぶ声がして顔をあげると…

…絶対に会いたくなかった人がそこにいた

「田浦課長…」

私の前職の上司で…元カレだ

小さな男の子を抱き抱えている
幸せなのか少し以前よりふくよかになったようだ

「元気そうだな…近くなのか?」

強張った顔で恐る恐る聞いた彼に

「いいえ、たまたまです…」

私は背を向けて足早にそこから逃げ出した



(あんな…あんな再会いらない…)

図書館を飛び出し、宛もなく歩く

(…何が元気そうだなよ…)

幸せそうに子どもなんて連れて…
私を捨てたくせに


思い出したくない記憶が後から後から沸いてきて
鼻の奥がツンと傷む

涙腺が緩みそうになるのを必死に押さえた

(忘れたの、もう忘れたんだから…)


どれくらい歩いただろう

気がつくと来たことのない場所で…

綺麗に造成されたオフィス街だった

中庭のような所には石がベンチのように置かれていて

私はそこに腰かけた

スマートフォンを開いて現在地を確認すると…

(会社から割りと近い場所だ…)

駅と駅に電車が直接乗り入れていないから
あまり来たことがないのだと思った

休日の今日は閑散としている

膝を抱えて座って辺りを眺めれば

綺麗に植樹された緑が優しくて
…少し癒された

ぼんやりと緑を眺めながらあれこれと思案する

「どうしようかな…これから」

カエさんと湊さんが入籍したら
私はあの家には住めない

田舎の実家に帰ってしまおおか…

でも仕事も折角やりがいが出て来た所だし

それなら、セキュリティはこの際考えず
会社のなるべく近くに狭い家を借りよう

「よし!決めた!」

立ち上がり、そう決意した所で

「休みにヒドイ面して歩いてんじゃねーよ」

声をかけられた

(このぞんざいな口調…)

顔をあげるとTシャツにジーンズというラフな服装の

…儀一さんが立っていた

「お疲れ様です佐久間さま」

「って、おい!休日まで佐久間さまはやめろ
儀一でいいよ」

「儀一さん……こんにちは」


「お前こんなとこでナニしてんの?…湊ん家からだと遠いぞ?あ、まさか追い出されたかついに…だからそんなヒドイ顔か?」

意地悪そうに唇を三日月型にした儀一さんに
私は首を振って答える

「いえ…自分で出てきました、顔がヒドイのは生まれつきです」

「ふうん、そーかよ…そう言う意味じゃねーし」

ドカッ

そんな音を立てながら儀一さんは隣の石に座って、スマートフォンをなにやら操作した

「儀一さんはこちらで何を?」

すると儀一さんは眉を片方つり上げた

「休日出勤だ。ここ、オレの会社ね?
秘書なら覚えろや」

「あ……」

確かに勉強不足だった

「申し訳ありません…」

「ん」

儀一さんは私にイチダの缶珈琲を差し出した

「飲めば……」

「有り難うございます!ちょうど喉が渇いてました」

頂いてすぐ頭を下げながらプルタブを引いて
こくこくと飲んだ

甘過ぎない微糖で美味しい

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