社長、僭越ながら申し上げます!
そのままの二人で
湊さんは優しく私の頭を撫でる

よく見ると左手の甲に爛れたような痕がある

「あの時の傷…あの時、色々あって泥酔していたから
雪に気付かずに…本当にどうしようもないよな
…でも生きてて、乃菊に助けられて良かった」

「じゃあ私が好きって…」

冗談やペットとしてじゃない、の?

「本気に決まってる…何も心配しないで帰っておいで…いや…帰ってきて?乃菊…」

湊さんはそう言うと私の唇に自分の唇を
そっと重ねた

柔らかい唇の感触に身体が痺れた

「…あ、嫌がらない?」

「…えと…」

戸惑っていると湊さんは唇を片側だけ引き上げた

「否定しないなら肯定だね…好き…」

「んー!んー!」

湊さんは次は唇を抉じ開けて…深く口づける

「好き…」

合間に好きが沢山響いてきて

私の頭はぼんやりしてきた

やっと唇を離した二人の間に…

何とも言えない恥ずかしさが込み上げてくる

そして
それは冷静な思考を連れてくる

「湊さん……でも、私…貴方に言わなくちゃいけないことがあります」

そう私が男性を好きにならないわけ…

「うん、たぶんそれ…オレは全く気にしない」

「え?」

まさか知ってるの?

「元カレと破局した理由の1つだろ?
オレは…乃菊さえ居ればいい……乃菊が好きなんだ」

…知ってるんだ…

「乃菊…そいつとオレは違うよ」

「でも……私…跡取りを貴方に残してあげられないよ?」

渋る私に湊さんは事も無げに言った

「跡取りなら儀一が何人も作ってるからいいよ」

「え…」

儀一さん、父親なの?

「アイツねー。既に3人の子持ちだから…
昨年産まれた子どもが三つ子だったんだよ」

湊さんはクスクスと笑いながら呟いた

「そうなんですね…」

「だから乃菊は何も気にせず
オレに堕ちてきなさい」

湊さんが私をまた抱き締めた

「湊さん……有り難う」

好きにならないって決めてたのに

好きになってた

受け入れてもらえないと思っていたのに

湊さんは私を丸ごと受け入れてくれると
言ってくれた

「信じていいの……?」

まだ怖くてそう呟くと

「もちろん」

湊さんが綺麗な猫目でウィンクした
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