ねぇ、顔を見せてよ
紅子と付き合う前は…

テキトーに可愛い女の子と飲みに行って
ホテルに行って欲だけ満たしてまたバイバイ

相手もオレを好きと言うより

イケメンで(自分で言うけど)
出世頭(これまた自分で言うけど)を射止めようっ
てだけで、本気で好きだとか嫌いだとか言う次元じゃなかった気がする

そんなんだから特定の恋人なんて出来ないし
出来ても続かない
だから女の子を家に泊まらせるなんてしてなかった

オレだって可愛い子とは思っても

『好きで仕方ない』

なんて子は今まで居なかった

だけど…紅子は暗幕ちゃんだった頃から何故か気になり、今では可愛くて好きで仕方ない

紅子もオレを好きだって全身で伝えてくれるし
離したくないから付き合うことにした

何度キスしても、抱き締めても飽きない
それどころか今ではそばに居ないと不安で
傍に居てくれるだけで満たされていた

(いつの間にかオレが紅子に溺れてる…)

嵯峨さんにはバレていそうが…
かなり紅子には依存しているし
恥ずかしい話…紅子無しで今のオレは成り立たない

紅子が出ていったあのとき

真っ青になって狼狽えているオレを見て
姉がビックリしていた

「巧…あんたあの子に本気なの?」

「…だったらなんだよ、当たり前だろ?え、あれ、着信拒否されてる…紅子…紅子…」

スマートフォンから繋がらない電話に焦り、苛ついていた

でも、まぁ備えあれば憂い無し…
居場所は暫くして掴めた

それを見ていた姉が今度は顔をしかめる

「うわ…重…あんた変わったわね…でもそれくらい本気なら安心したわ、母さんにも報告しておく」

なんて納得したのか帰って行った

結局何をしに来たんだ?わからない

オレは実家に向かい車を借りると
急いで指し示された場所に向かった

…そこが閉店後のパン屋『Baum』だったのだ

(パン屋?)

いきなり訪問しようか悩み…

恐る恐る電話を掛けるとやっと紅子が出て
そして、応対してくれたのが嵯峨さんだったのだ




(あ、じゃあ朝から迎えに行っちゃおうかなー)


夜、何度も寝返りを打った寂しいベッドの中で
そう考えたら…どうにもお昼まで待てなそうで
朝起きてすぐにBaumに向かった



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