ヒミツにふれて、ふれさせて。


珠理からの返事はすぐには返ってこなかったけれど、しばらくシンとした空気がわたしたちを囲んだあと、そのきれいな唇は静かに動き出した。


「…なかなか合流しないから、心配したわよ」


この人にしては、重い、ズシリとしたその声は、わたしの心に響いていく。


「…うん、ごめんなさい。ちょっと、リョウちゃんとお話することがあって」

「…」

あとは、珠理の誕生日プレゼントを選びに行っていたからだったんだけど…。

「…」


しばらく、なんとなく気まずい空気が漂っていた。珠理は怒っているのか何なのか分からない表情をしていて、気持ちを掴むことができなくて、戸惑ってしまう。

思わず下を向いて、手のひらをぎゅっと握ってしまうわたしを、珠理はジッと見ていたけれど、わたしと向かい合った状態で、口を開いた。


「…何も、されなかった?」


——…いつのことを、思い出しているのだろうか。

珠理の指先は、わたしの頰に触れて、親指で静かにその周りをなぞる。


「話しただけ?ほんとに、何もない?」


声を少しだけ震わせて、下を向いて、少しだけ悲しそうな、不安そうな顔で、わたしの頰を撫でる。

わたしは、なんとなくその顔を見て、鼻の頭がツンと熱くなった。そして、その不安そうな指先を、慌てて掴む。


「何も、されてないよ。ただ会って、話しただけ。わたしの忘れ物があったからって、お話しただけ。ほんとに、何もされてないから大丈夫だよ」

「—…」


ぼーっと、わたしの頰を撫でながら、どこを見つめているのだろう。
珠理は、少しだけ頰から指を話すと、添えられていたわたしの手を取って、ぎゅっと握った。

…そして、わたしの方を向いて、しっかりと目を合わせる。

わたしをジッと見つめていたその目は、やっぱり、いつもよりも強い不安を抱いているように見えた。

きゅっと結ばれた整った唇は、少しだけ震えて、言葉を繋いでいく。


< 217 / 400 >

この作品をシェア

pagetop