ヒミツにふれて、ふれさせて。



「…まだ、あの人のこと、好きだって思った…?」


「…………、え」



あまり、珠理らしくない、余裕のないその言葉に、思わず顔を上げる。

目が合った瞬間、珠理も不意に出た言葉にびっくりしたのか、自分の口に、大きな手のひらを当てていた。

…明らかに、“しまった” という顔。



「……ちょ、ちょっと待って。今のナシ。なんでもないわ、ナシナシ。今のは、聞かなかったことにして…」


わたしに背を向けて、ベランダに突っ伏した珠理。きっと、こんなこと聞くつもりじゃなかったんだろうな。動揺が半端ない。

恥ずかしいと、聞くつもりじゃなかったから忘れてと、必死に弁解している。


…でも、さっきの言葉は、きっと…。

珠理の、きもちの一部だよね。



「…」



鞄の中身を、取り出した。まだ、ここで出すタイミングではないと分かってはいたけれど、いつもからは想像もできないほど、弱っちくなっているこの生き物をどうにか立て直すには、これしかないと思った。


わたしの気持ちを誤解しているなら、それを解くには、分かりやすく教えてあげなきゃいけないと思った。



「……珠理」



突っ伏して、顔の下敷きになっている左腕を、グイッと引っ張る。
それに気づいた珠理は、不思議そうにしながら、でもまだ顔は歪んだまま、わたしの方を再び向いた。


…せっかくラッピングしてもらったけど。渡すのはここじゃないって、もっと後だって分かってるけど。

でも、今の珠理を見ていると、こうしたくなったんだもん。




「…これ!これを選んでたら、遅くなっちゃったの…!」




…今、渡したいって、思っちゃったんだもん。


パチン、と、小さく音を立てて、買ってきたブルートパーズのブレスレットは、珠理の左手に飾られた。

かわいそうに、急いで開けたラッピングは、だらしなく下に落ちてしまったけれど。でも、それでもいい。


珠理に、誤解されたままのほうが、よっぽどもやもやする。




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