ヒミツにふれて、ふれさせて。


・・・

お店を出た。わたしは、一度鞄の中からスマホを取り出した。

そしてそのまま、しっかりと靴が履けていることを確認して、走り出す。


右手に握っていたスマホ。マナー違反だけど、走りながら通話を開く。こういう時、スマホに慣れている手つきで良かったって思う。


曲がり角をいくつか曲がって、どんどん瀬名といた場所から離れて行った。


その間に鳴り響いていた通話音。

息が切れて来ても気にしないで耳に押し当てていると、その奥からソプラノの声が聞こえる。



『…はい、もしもし』



…珠理のところに行く前に、ちゃんと、伝えておかなければならない人。



「…ちゃ、茶々ちゃん…!?」



電話をするのは、初めてだった。だっていつも、電話なんかいらないくらい、学校でもたくさん話していたから。

電話よりも、直接伝えたいことの方が、増えたから。


でも、今日はごめんね。今、伝えなきゃいけないことがあるの。


『…めご。どうしたの?』


“息が切れてるけど、大丈夫?”

そんな心配する言葉も添えてくれるのは、茶々ちゃんがやさしいから。ぶっきらぼうだし、口は悪いし、女王様だけど、ちゃんとやさしい子。

それは、ずっと分かってた。だから、電話したんだ。

ちゃんと、自分から伝えなきゃと思ったから。



「…っ、茶々ちゃん…!わたし、これから…っ、珠理のとこ行ってくる…!」

『………』


黙っている間も、伝え続ける。


「珠理のとこ、行きたい…!珠理が考えていること、聞きたいから、ちゃんと、自分から話に行ってくる…!わたしが思っていること、ちゃんと伝えてくるから…!」



——あぁ。

これを聞いて、電話の向こう側の茶々ちゃんはどう思うのだろう。

怒るのかな、呆れているのかな。
ばかじゃないのって、言うのかな。


右耳に押し当てたまま、走り続けた。だから、右腕がジンと痺れて来て。

きっと、うるさい息遣いが聞こえているんだろうなって、思っちゃったけれど。


でも、必死だった。


< 248 / 400 >

この作品をシェア

pagetop