ヒミツにふれて、ふれさせて。


『…ほんと、ばかね』


右手が限界だったから、左手に持ち替えた。そしたら左耳から、茶々ちゃんの声が聞こえた。

…やっぱり、ばかって言われちゃった。そうじゃないかなって、思ってた。



『桜井芽瑚』

「うん…!なに!?」



茶々ちゃんに、フルネームで呼び捨てにされたのは久しぶりだ。初めて会った日のことを思い出す。



『あんたは、珠理のことちゃんと幸せにできんの!?』



…茶々ちゃん。



「う…、うん…!!頑張る!!」

『珠理を泣かせたりなんかしたら、地獄に落としてやるんだからね!? あたしが好きって言ってんのに振り向かなかった唯一の男なんだから!そんな人が好きだって言ってくれてんだから!あんたは大の贅沢者なんだからね!!』


「はい…!」


走りながら、また泣きそうになった。

最初は怖かった茶々ちゃんの言葉が、声が、また元気をくれているような気がした。

ぶっきらぼうな言葉だけど、背中を押してくれているような気がした。



「茶々ちゃん…っ、今度何か奢る!奢らせて!」

『ふん。じゃあイタリアンのビュッフェと駅前のチョコレートカフェ』

「おーけー分かった!」



半分叫びながら答えると、茶々ちゃんは笑った。そして、言ってくれたんだ。


『せいぜい頑張りなさい』



…そうやって。



その言葉を残して、その電話は切れた。


わたしは、切れる息を抑えながら、スマホを鞄の中に突っ込んでいた。





< 249 / 400 >

この作品をシェア

pagetop