副社長のいきなり求婚宣言!?
 いつの間にか、エレベーターは止まっていて、到着音が開いた扉の外へ転がっていく。

 でも副社長は私を離そうともせず、そこを出ようともしない。

 コーヒーを持つ手がはらりと解かれ、箱の後方にもある操作パネルに触れると、再び扉は閉ざされた。


「あの人に対する気持ちなんて、もうこれっぽっちもないです。

 だって今は、副社長のために描こうって、副社長に褒めてもらいたくて、副社長と一緒にいられる未来はとても素敵なんだろうな、って思いながら……」


 あ、だめ……

 これ以上口を開いてたら、溢れそうな涙よりも、気持ちが先に零れてしまう。


「……ただ、副社長の隣に居たくて、……私……」


 顔を背けることを許されないまま、副社長の掌はぐっと私の腰を引き寄せる。

 両手で缶を持つ私の手では、自分の口を塞げない。


 それなのに、自分では止められそうになかった口が、気持ちを零してしまう前に、不意に何かに塞がれる。


 あたたかくて、柔らかくて……

 触れたらきっと、心が幸せでいっぱいに膨らむんだろうなって思っていた副社長の口唇が……私の心を包み込むように、やんわりと角度を変えた。



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