ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 けれどその機会すら葵は与えられなかった。

 蒼佑は婚約破棄を聞いて家に訪れた葵と、会うことすらしなかった。
 間違いなく彼は自宅にいたのに、居留守をつかわれて、やんわりと追い出された。

 それから葵は、心を失った。

 生きる力を持てず、意気消沈し、一日中寝てばかりで、物が食べられなくなった。みるみるやせ細る娘に両親は思う事があったのか、療養として、祖父の生家がある熊野へと移転した。

 一切の親戚づきあい、そしてかつての友人知人をすべて切り捨てて、祖父を含めた家族だけで、田舎暮らしを始めたのだった。

 葵は、決まっていた東京の大学進学もやめて二年療養した。それから地元の短大を受験し、卒業するころ、祖父が亡くなった。

 葵の目が覚めたのは、そのころだ。
 大好きな祖父を失い、葵は自分は生まれ変わらなければならないのだと、ようやく気が付いた。

 強くならなければならないと、思ったのだ。

 そして両親の反対を押し切り、東京に出て、仕事を探した。

< 10 / 318 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop