ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

「――葵さん?」

 そこでようやく、葵の異常に気づいたのか、大内が顔を覗き込んできた。

「どうしました、気分がすぐれませんか?」
「ええ……いえ、大丈夫です……。ただの、貧血だと思います」
「大変だ。椅子を持ってきますから、休んでください」

 だが大内はサッと身をひるがえして、近くにあるパイプ椅子を持ってきて、葵の横に広げる。

「ありがとうございます」

 うつむいたまま椅子に座った瞬間、

「大丈夫ですか? お水を持ってきましたが、飲めますか?」

 頭上からバリトンの低い声が聞こえて、葵は凍り付いてしまった。

 絶望が形をとり、音を奏でれば、きっとこんなふうだろうと思わずにはいられなかった。

(嘘でしょう……?)

 残念ながら、彼は今も、HFで働いているらしい。
 スタジオの端で気分を悪くした女性を見て、撮影の場から離れてきたのだろう。
 相変わらず、目端の利く男だ。

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