ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 長い間離れていたはずなのに、そんな考えに思いつく自分に吐き気がした。

 頭がガンガンと痛くなる。

(この声は……間違いない)

 どうしてだろう。何年たっても、わかる。

 顔を上げたくない。けれど、上げないわけにはいかない。

(そうよ……傷ついている顔なんか、絶対に見せないって、決めたじゃない……)

 葵の矜持など、世間的にはなんの意味もないだろう。
 だが自分が今後も生きていくうえで、絶対に、八年も前の出来事に傷ついてはいけないのだ。

 葵はゆっくりと顔を上げた。

 切れ長の瞳と、視線が重なる。

 百八十五近い長身に、少し癖のある黒髪と、彫りの深い顔だち。グレーの瞳。彼の祖母はアメリカ人だ。クォーターで、どこかエキゾチックな美貌の持ち主でもある。
 八年前はまだ青年といった雰囲気だったが、三十一になる今は、完全に大人の男になっていて、フルオーダーに違いない、体にぴったりとあつらえたスーツを身にまとっていた。ピンストライプの三つ揃えが、厚い胸板や長身に信じられないくらい似合っている。

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