ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
だがそうではなく、蒼佑にも蒼佑なりの八年があったのだと知り、ようやく今の蒼佑に目を向ける気持ちが湧いてきた。
この先のことはわからないが、できれば蒼佑という男のひととなりを、少しずつでもわかっていきたいと思う、葵である。
(だってもう、私は彼の婚約者ではないんだもの……)
お互いが側にいる理由など、なにもないのだから――。
そんなことをベッドの中でつらつらと考えていたのだが、蒼佑は腕時計を見下ろして、ふうっと息を吐いた。
「明日退院なら、準備をしなければいけないな。名残惜しいが、帰るよ」
「わかりました……けど、私、いったいどこに行くの?」
“君は俺のところに来る”と言ったことが気になっていた葵は、真面目に問いかけたのだが、蒼佑はにっこりと笑って、
「俺のところって言うのは、俺がいる場所のことだよ」
と、さらりとかわし、「また明日迎えに来る」と言って、病室を出て行ってしまった。
(あの人……案外食えないタイプなのかも)
一筋縄ではいかない蒼佑という男の一面を、なんとなく垣間見た気がするのだった。