ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 だがそうではなく、蒼佑にも蒼佑なりの八年があったのだと知り、ようやく今の蒼佑に目を向ける気持ちが湧いてきた。
 この先のことはわからないが、できれば蒼佑という男のひととなりを、少しずつでもわかっていきたいと思う、葵である。

(だってもう、私は彼の婚約者ではないんだもの……)

 お互いが側にいる理由など、なにもないのだから――。

 そんなことをベッドの中でつらつらと考えていたのだが、蒼佑は腕時計を見下ろして、ふうっと息を吐いた。

「明日退院なら、準備をしなければいけないな。名残惜しいが、帰るよ」
「わかりました……けど、私、いったいどこに行くの?」

“君は俺のところに来る”と言ったことが気になっていた葵は、真面目に問いかけたのだが、蒼佑はにっこりと笑って、

「俺のところって言うのは、俺がいる場所のことだよ」

 と、さらりとかわし、「また明日迎えに来る」と言って、病室を出て行ってしまった。

(あの人……案外食えないタイプなのかも)

 一筋縄ではいかない蒼佑という男の一面を、なんとなく垣間見た気がするのだった。

< 181 / 318 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop