ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 それから日が完全に落ちた夜、蒼佑と入れ替わる形でナツメがやってきた。大内は話が終わるまで、廊下で待っているという。

「葵ちゃん……よかった」

 そう言ってぽろぽろと涙をこぼすナツメはひどく憔悴していたが、当然葵は、ナツメを責めることなどできない。

「悪いのは私をわざと突き飛ばした人であって、なっちゃんが悪いわけじゃない。仕事を辞めるなんて言っちゃダメだよ」

 そうでも言わないと、辞めると言いそうな気がしたのだ。今回のことは確かに不幸な事故だったが、ナツメが夢を諦める理由になるはずがない。
 葵はことさらなんともないというふうに、笑顔を向けた。

「ところで、お父さんとお母さんに連絡した?」

 両親はオーストラリアに住んで、悠々自適の生活をしている。恐る恐る尋ねると、「母さんにはした」と、申し訳なさそうに言われて、「そっか」とうなずいた。あまり心配させたくなかったが、仕方ない。

「ただ、階段から落ちて入院したってことは話したけど、事件に巻き込まれたかもしれないとは言わなかった」
「うん、それでいいと思う。まだ事件性があるかどうか、はっきりしてないわけだし……」

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