ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
沢村と呼ばれたのは、りか子の隣で困ったように立っている、外商部の部長だった。紳士服の部長も隣に立っている。従業員を帰せと顧客に言われて、仕事を放棄させるわけにはいかないが、相手はHFの社長夫人だ。
なにしろ南天百貨店の売り上げの半分以上は、外商顧客の売り上げである。
政財界にも顔が広い、りか子の要求を突っぱねるのはなかなか勇気がいるだろう。
(――まさかここに来るなんて)
蒼佑も葵会いたさにスーツを作りに来たくらいだが、全然、まったく、意味が違う。
葵はグッとこぶしを握って、スタスタとりか子のもとへと歩いて行った。
「どういったご用件でしょうか。お話でしたら、仕事が終わってからお聞きしますので――」
「あら、だめよ。私、歌舞伎を観に行くんだもの。待ってなんかいられないわ」
りか子は困ったように、時計を見て首をかしげた。
「――そうですか」
そう言われると、葵は内心呆れながら、うなずくしかない。
おそらくりか子は、意地悪で言っているわけではないのだ。