ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 南条瑞樹。金融系の大グループ、南条ホールディングスの御曹司で、かつては子会社である南天百貨店の、企画営業室の室長をしていたと聞いたことがある。
 今は本社に戻っていると聞いたが、なぜ彼がここにいるか、葵にもわからない。

「どうしてって、たまたまですよ。たまたま」

 そして瑞樹は、呆然としている葵を見下ろして、軽く唇の端を持ち上げる。

(えっ、笑った?)

 そして瑞樹は優雅な微笑みを浮かべて、りか子のバッグをサッと手に取り、顔を覗き込んだ。

「おばさま。歌舞伎を観に行かれるんですってね。どうです、俺と一緒にドライブしませんか。送らせてください」
「えっ……あら、そう? そうね……」

 りか子は瑞樹の勢いに引きずられるように、そのまま部屋を出て行きながら、葵を肩越しに振り返った。

「――とにかく、よろしくお願いね」

(よろしくって……)

 よろしくなんかされた覚えはないが――。

「助かった……のかな」

 葵は深く息を吐き、自分を抱き締めるようにして二の腕をつかむ。
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