ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~

 東京に戻ってきて、昔の知人の縁はほとんど切っている。思えばあれは友人というよりも、同じレベルの階級で繋がっていた、そんな薄氷の上で成り立っている関係だった。
 それを懐かしく気持ちは、今の葵にはない。そして彼女たちもきっと、今は葵のことなど忘れて幸せに暮らしていることだろう。

 なので突然こうやって、たまに一緒にお昼を食べて、どうということもない会話をする程度の彼に、友達のように扱われると、本当にいいのかと、妙に気恥ずかしくなってしまうのだ。

「ありがとう、ございます……」

 恥ずかしい気持ち半分、嬉しい気持ち半分で、ぽそぽそとつぶやくと、

「だって、あんたには、ほかにこういうこと頼めそうな、男の知り合い、いなさそうだしね」

 あっけらかんと言われてしまった。

「まぁ、確かにいませんけど」

 図星なので、思わず頬が膨らんでしまった葵だが、

「むくれなさんな」

 津田は笑って、葵の頬に手を伸ばし、むにゅっとつまむ。

「立派にあんたの彼氏、演じてあげるから」

 パチンウインクされ、なおかつ語尾にハートが見えるような気軽さである。

 その笑顔を見ると、なんとなくうまくいくような気がして、葵はホッと胸を撫で下したのだった。


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