ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
それから数日後。蒼佑が夕方六時ちょうどに、サロンに姿を見せる。採寸のためにやってきたのだ。
濃い目のグレーの三つ揃え姿の蒼佑は、相変わらず美しく堂々としていた。
「いらっしゃいませ」
頭を下げる葵を見て、嬉しそうに目を細める。
「天野様、こちらへどうぞ」
「葵、元気だったか? 雨に濡れたりしなかったか、心配していたんだ」
前回別れた日、雨が降っていたことを、蒼佑の言葉で思いだした。
(そういえば、送るって言ってたっけ……子猫じゃあるまいし、多少濡れたくらい、どうってことないのに)
内心そんなことを思いながら、
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
葵はそう返し、蒼佑をサロンの奥にある採寸のための部屋へと通した。
「お待ちしておりました」
そこには前回は不在だった、オーダーサロンの責任者だけでなく、外商部の人間がふたり立っていて、蒼佑がやってくるのを今か今かと待っていた。
前回の注文で、蒼佑が大手飲料メーカーの御曹司、天野蒼佑ということは外商部まで話が通っている。
葵がすることなど特にない。ただ、黙ってこの場にいるだけだ。
(私、いなくてもいいのなら、帰りたいくらいだけど……)