ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
残念ながら、今日もこのために残業である。
そして、上着を脱ぎ、ベストを脱ぎ、ワイシャツ姿になった蒼佑の採寸が始まった。
てきぱきと、上司たちが仕事を済ませるのを、葵は真面目に見つめる。
もともと天野家は、外商の顧客だったらしい。それもそうだろう。富裕層はいくつもの百貨店の外商をかけもちしているものだ。だが次期社長候補である蒼佑個人は、まったく付き合いがなかったので、今回の件は会社的に、渡りに船ということだった。
(仕事でアメリカにいたんだっけ……私から逃げるためだったんだろうな)
自分で言うのもなんだが、高校生の頃は本当に子供で、純粋で、一途で、五つも年上だった蒼佑に夢中だった。
だから自分のことしか考えられなかった。
自分は彼に愛されていると本気で思っていた。たとえ自分の背景に価値がなくなっても、状況がどうあれ、その思いは変わらないと思っていた。
『こんなことになったけど、俺も君が好きだよ』と、答えてくれるものだと思いこんでいた。