ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
極力目に入れないようにしていたし、飲み物を買うときだって、徹底的に避ける。
日々の生活からは、完全に排除するべき、存在だった。
(嘘でしょ……)
心臓が、バクン、バクンと跳ねている。
うまく息ができない。何度も深呼吸を繰り返しながら、必死で二の足に力を入れる。
(まさかなっちゃんがHFで仕事をするなんて……!)
だがナツメが知らないのも無理はない。
葵がHFの御曹司である、天野蒼佑に婚約破棄されて、八年が経つのだ。
(そう……一方的に……捨てられて、八年……)
葵の心が死んで、八年になる。
葵の祖父は大臣まで務めた国会議員で、代々名家だった。
婿養子だった父は事務次官まで務めた元官僚で、いずれ祖父の跡を継ぐと言われていた。母は、豪快な祖父にそっくりで、蝶よ花よと育てられたはずが、動物専門のカメラマンになるという、少し変わった家族だった。