お茶にしましょうか
俺は、人混みは苦手だ。
俺は、人混みが苦手なくせに、人で溢れている中庭にある花壇を選んだ。
なぜなら、今は二人きりも耐えられないからだ。
2人で、花壇に腰掛ける。
そして、2人して無言になる。
話題はある。
むしろ、俺に話題は一つしかない。
先に、よく毒を吐くあいつに言われてしまったことだが。
この際、照れなど必要ない。
意を決して、首だけをゆっくりと萩原さんの方へと向ける。
赤く、おまけに汗だくのこの顔で、先手を取ろうとした。
「さあ!江波くんのたこ焼きをいただきましょうか。とても美味しそうですよ」
「…あ、ありがとうございます」
「いただきます!」
「ど、どうぞ。召し上がれ…」
やはり彼女には、完敗だ。
そして度々、訪れるこの敗北感。
しかし、ここから絶対に妬みには、発展しない。
必ず、全てが尊敬へと変わるのだ。
たった今ですら、俺はこのような調子だ。
萩原さんは俺の焼いた、たこ焼きを「美味しい、美味しい」と言って、頬張ってくれている。
そのような彼女を見て、俺はとても嬉しい想いがしている。
そして、俺はもしかしなくても、そのような彼女に惹かれていた。
俺は自身の気持ち、答を今になって気づいてしまった。
恨まれている可能性も、あるかもしれないというのに、だ。
萩原さんは、美味しいを連呼しすぎて、他に言うことが無くなったのか、ついに静かになった。
俺の番が回ってきた。
そう思った。
ここであれを言わなければ何時、言うというのだ。
「萩原さん」
名前を呼ぶと未だ口の中に居た、たこ焼きを飲み込み、彼女はこちらを向いた。
「昨日の発表、とても良かったです。あれほど、素敵な音が出るんですね、あの楽器は…」
「ええ、もちろん。リョウさんですから」
萩原さんは、満面の笑みで答える。
なるほど。
あれは、何十年も相棒をしてきた、ということの証明の様なものである。