センチメンタル
「あ、ほんと?岸岡達にこんなこと言うと、ぜってー笑って馬鹿にするからさあ。何一人で大人ぶってんの、とか言われそうで」
「まあ、個性ってことで・・・いいのではないかな。皆同じ気持ちじゃなきゃダメってことはないんだし」
武田君は振り向いた。その顔は嬉しそうで、ちょっと細められた目には光があった。
「何か今の、嬉しい言葉だなー!」
「そ、そう?良かった良かった」
武田君の体から力が抜けたのか、それまでの微妙な空気が消えたのが判った。あうんの呼吸というほどにはピッタリではないかもしれないけれど、似たような何かを感じたのだ。お互いが、確かに。
それから武田君はくつろいだ表情で話し出した。ゆっくりと、丁寧な感じで。クラスの男子のこと、金曜日に出たテストの内容のこと、予習復習の面倒くささなんかを。
私はこっそりと一つ深呼吸をして、武田君の話に頷いたり意見を言ったりした。
午前中はあんなにもじっくり話すことを避けていた二人なのに、今はもう自然に色んなことを、たくさんのことを話している。それが何とも不思議だった。
あれー?話せてるじゃん、って。ぜーんぜん大丈夫だわ、気まずさも皆無だし、って。
気まずさというか・・・むしろちょっと興奮して、楽しい感じだった。
一度自販機で、今度はお茶を買って飲んだ以外、二人はずっと小声で話していた。途中からは話すのは私が多くなってきて、彼はニコニコと頷いたり相槌を打ってくれていた。周囲が段々とオレンジ色になって世界は夕方になり、風が温度を低くし始めても。