眼鏡をかけるのは、溺愛のサイン。
「えっ」
何を言っているのかとまじまじと顔を見上げてしまう。
すると眞井さんは腕時計を私に指で示す。
「俺の休憩はあと5分」
「ではごゆっく――」
「だから、君の隣にいる。五分、君を独り占めしようかな」
まただ。また眼鏡をかけながらそんなことを言う。
この人、どうして眼鏡をかけたら甘い言葉を吐くの。
まるで5分が止まって感じた。
「社長は、」
「二人の時は呼び方は違うよね?」
「眞井さんは、眼鏡をかけるとなんかちょっと、違いますね」
銀色のフレームの向こう側が、急に優しい瞳になる気がした。
「そうだな。仕事中は余計なものを見ないで済むよう、仕事に集中するように眼鏡はしない。けれど家でネクタイを解いて一息吐くように、眼鏡をすると素の自分で落ち着ける」
「そうなんですね」
「自分の気持ちに素直になれる。ああ、俺は、俺が持っていたガラスの靴を履いてくれる運命の相手に出会えたのだなあと」